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Residential Incubator “toberu”

居住滞在型インキュベータ施設 toberu / Residential Incubator “toberu”
京都市左京区 / Sakyou-ku, Kyoto, Japan
居住滞在型インキュベータ施設 / Residential Incubator
2019.05
photo: Yurika KONO


奥行きのある空間
学生時代を京都で過ごしたことは、私たちが建築を考える上での大きな背景となっている。大きな通りが小路や辻子へ、そして通り土間へつながっていくように、町から室内へと空間が連続することへの信頼は京都という町で培われたものだ。そこにはやわらかい山や大きな川、暗い神社や石畳の路地があり、眼に見える以上の時間的・空間的な奥行きを感じられる。京都に建築を設計するのであれば、私たちが感じてきた町の奥行きを少しでも感じられるような建築に出来ないかと考えた。

Toberuはインキュベーション施設として、起業したい若者10名が4ヶ月間滞在し、時間と場所を共有することで新しい価値観や道筋を見つけることを目標とされている。そこで、大きな食堂やライブラリ、ミーティングルーム、10部屋の個室と2部屋のゲストルーム、共同の浴場などが求められた。敷地は三方を性格の異なる通りに囲まれた特徴的な土地であったため、通りごとに異なる顔を持つ、小さな街区を一つ設計するつもりで考えた。一つ目の通りは志賀越道という、かつては荒神口から滋賀へとつながる野辺送りの道であった街道筋であり、この面を建物の主たる出入り口とした。町家に「ミセ」と呼ばれる、客のためのパブリックな場所があるように、通りに対して活動が見えるミーティングルームが配置されている。東側の通りは湾曲した道であったため、カーブを生かして細長いライブラリが配置されている。町家の起源の一つは、塀が通りに向かって空間化していったことだと聞いたことがあるが、この空間も分厚い塀が透明化したような、ショーウィンドウがそのまま居場所になったような、特徴的な空間となった。西側の道は最も細いコミュニティのための私道であり、向かいに町家群が面していることに対応し、それぞれの小さな個室がずらりと並ぶ立面となっている。路地のような入口を進むと、中央に大きな吹き抜けの空間があり、皆が集まり食事をしたり議論したりする場となっている。坪庭から差し込んでくる光の他外の世界を直接見ることは出来ず、町から遠くに来たような奥行きのある空間となったのではないかと感じている。